「なぁ、定年したら、四国にあるおばあちゃんの古民家をリフォームして、民泊してみたいねん」
晩ご飯を食べ終えたあと、奥さんがふとそう言いました。
最初は冗談かと思いましたが、その表情は真剣そのもの。 え、民泊? うちが? そんな発想どこから出てきたんや。
🌿 標高の高い山あいの古民家
奥さんの祖母の家は、高知県の山の中にあります。 標高が高く、夜は満天の星空、朝には雲海。 空気は澄み、風の音と鳥の声しか聞こえません。 お風呂は薪で焚き、裏には畑や棚田が広がる。 まさに「誰もが思い描く田舎の古民家」という風景です。
ただし、病院もスーパーも遠く、冬は雪が深い。 「観光地からも離れてるし、そんなん誰が泊まりに来るねん」と、つい笑ってしまいました。 でも奥さんはにこっと笑いながら、「誰かがあの家を使ってくれたら、それだけでええねん」と言いました。
その言葉を聞いて、少しだけ胸の奥が動いた気がしました。 “もしあの家に人が来て、笑顔で写真を撮ってくれたら…” そんな想像が、頭の片隅をよぎった瞬間でした。
💼 店長としての日々と、見えない天井
私は今も昔も、飲食店の店長をしています。 仕事には慣れていて、職場の仲間にも恵まれています。 残業も少なく、店も安定している。 それでも、心のどこかで「物足りなさ」を感じていました。
若い頃は新店舗の立ち上げに燃え、数字を追うのが楽しかった。 けれど今は、仕事を“こなす”感覚が強い。 給与体系が変わって、ほんの少しだけ手取りは増えたけど、 「これ以上は伸びないな」という上限も見えました。 サラリーマンとしての安定と引き換えに、 “やっても報われない虚しさ”が心に残るようになっていたんです。
「仕事に不満はないけど、情熱がない」 そんな自分に、ずっとモヤモヤしていました。 これがいわゆる“中年の壁”なのかもしれません。
📚 奥さんが借りてきた一冊の本
そんな時、奥さんが図書館から1冊の本を借りてきました。
タイトルは『民泊一年生の教科書』。 著者は「ぽんこつ鳩子」さんという、普通のOLから民泊ホストになった女性でした。
「ぽんこつ鳩子」さんが民泊を始めたのは、 まだ“民泊”という言葉すら一般的ではなかった時代。 会社勤めに疲れ、心身のバランスを崩して長期休職を取り、 その間に世界中を旅したそうです。
旅の途中で訪れたニューヨーク。 そこで、かつての旅仲間が自分の部屋を民泊として貸し出していたのを目の当たりにしました。 その友人は、狭い一角で寝起きしながら、リビングをゲストに提供していたそうです。 もともとは貧乏旅仲間だったのに、 ニューヨークを離れる頃にはしっかりとした収入を得ていた——。 その姿に衝撃を受け、「日本でもやってみよう」と決意したのだとか。
当時はちょうど「民泊新法」が整備され、 個人でも合法的に始められるようになったタイミング。 鳩子さんは自宅の一室をリフォームし、ゲストを迎え入れるところからスタートしました。 仕事で疲れきった心を癒やしてくれたのは、 ゲストの「ありがとう」という言葉だったそうです。
💡 “ぽんこつOL”から民泊インフルエンサーへ
彼女は今、民泊業界で知らない人はいないほどの存在になりました。 SNSでは数万人のフォロワーを持ち、YouTubeやXでも積極的に情報を発信。 現在は全国のホストから相談を受ける、民泊業界の第一人者の一人です。
日本では、女性が会社で出世したり、資産を築いたりするのがまだ難しい社会構造があります。 そんな中で、鳩子さんは「民泊は女性でも手掛けやすいビジネス」として解説していました。 家事・清掃・デザインセンスといった“女性が日常的に培ってきたスキル”が、 そのまま価値になる。 それを彼女自身が体現していたんです。
彼女のストーリーは、 “特別なスキルを持たない一人の女性が、自分の手で人生を取り戻していく過程”そのもの。 だからこそ、読んでいて勇気をもらえる内容でした。
🧠 私がこの本に惹かれた理由
飲食店の仕事も、人に喜んでもらうのが原点です。 けれど、日々のルーティンの中で「感謝の瞬間」を実感する機会は減っていました。 そんな中で読んだ『民泊一年生の教科書』は、 “人との関わりで成り立つビジネス”としての温かさに満ちていました。
民泊は、ただの宿泊業ではない。 そこには人の思い出や旅の時間が流れている。 それをサポートするホストという仕事に、 これまでの自分の経験(接客・管理・気配り)を重ねずにはいられませんでした。
「民泊って、意外と自分でもできそうやな」 奥さんにそう言うと、彼女はにっこり笑って言いました。 「やってみたらええやん」 その軽い返事が、妙に背中を押してくれました。
🚪 小さな好奇心が、人生を動かす
こうして、何気なく手に取った一冊の本が、 私の中で“行動のスイッチ”を押しました。
まだこの時は、実際に物件を探すなんて考えてもいませんでした。 ただ、「もしやるなら、どんな宿を作りたいか」 そんなことを、仕事帰りの電車でぼんやり考えるようになっていました。
皮肉なことに、今の時代はオーバーツーリズムが問題になり、 “民泊逆風”とも言われる時代。 けれど、鳩子さんが始めた頃も同じように、 社会の空気は決して追い風ではなかった。 それでも、彼女はやりたいと思った瞬間に動いた。 その姿勢に、自分も勇気をもらいました。
「今の生活に不満はない。でも、このまま終わりたくはない」 その小さな違和感が、確かな種となって芽を出し始めた日。 それが、私の“民泊決意から0日目”です。
📘 次回予告:
「民泊決意から10日目 情報収集と最初の学びの日々」
鳩子さんの本に感化され、行動を始めた私は、 図書館やネットで民泊の情報を集め始める。 そして、もう一冊の教科書に出会うことになる。
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